円安は輸出企業にとって大きな追い風となります。なぜなら、海外で販売した製品を円に換算する際、より多くの利益を得られるからです。
しかし、円安の恩恵を受けるのは輸出企業だけではありません。
実は、訪日外国人観光客の増加による恩恵を受ける企業や、海外に事業展開している企業など、円安によって株価が上昇する可能性のある企業は多岐に渡ります。
この記事では、円安が株価に与える影響について、業界別にメカニズムを分かりやすく解説し、円安時に注目すべきおすすめの銘柄をご紹介します。
目次
円安は株価に影響する?
円安だからといって、必ずしも全ての企業の株価が上がるわけではありません。
円安は、輸出企業にとって追い風となり業績向上に繋がりますが、輸入企業にとってはコスト増加になるため、株価にマイナスの影響を与える可能性が…
まずは、円安が株価に与える影響について、業界別にメカニズムを解説します。
円安で株価が上がる業界
基本的に円安で株価が上がるのは、商品やサービスを輸出して稼いでいる業界です。理由は、海外で得た売上を日本円に換算する際に、より多くの円を得られるから。
- 1ドル100円の時
→100ドルの商品は、日本円で10,000円の売上 - 1ドル150円の時
→100ドルの商品は、15,000円の売上
このように、円安になると輸出企業は同じ商品を販売しても、日本円換算での売上高が増加し、利益も増える傾向にあるでしょう。特に、売上高に占める輸出比率の高い企業は、円安による増益効果が大きくなり、株価も上昇しやすいため注目されます。
自動車メーカー
円安のメリットを受ける代表的な業界としては、自動車メーカーが挙げられるでしょう。
2024年においても、自動車は日本が世界に誇る基幹産業であり、世界中で日本車が販売・輸出されています。円安になると、海外での販売が円換算で増収となるため、業績が向上しやすくなりますね。
例えば、自動車部品メーカー「GMB(7214)」は最大上昇率373%を達成。
半導体製造装置関連
また、世界的に需要が高まっている半導体や半導体製造装置関連の企業も、円安の恩恵を受けやすい業界です。特に日本企業は、この分野で存在感を持つ企業が多数存在。
世界中で半導体製造装置や検査装置を販売している企業は、円安になると海外での販売が円換算で増収となるため、業績が向上しやすくなります。
インバウンド関連
円安で株価が上がる業界は、輸出関連業界だけではありません。近年では、インバウンド関連も円安の恩恵を受けやすい業界として注目されています。
円安になると、外国人観光客にとって日本旅行が割安になるため、訪日観光客が増加するでしょう。観光客向けのビジネスを展開している企業(鉄道会社・ホテル・小売店など)は、業績が向上しやすい。
特に、外国人観光客に人気の高い店舗を運営している企業(百貨店・ドラッグストアなど)は、円安による増収効果が期待できます。
円安で株価が下がる業界
円安は輸出企業に有利に働く一方で、輸入企業にとっては逆風となります。なぜなら、海外から原材料や製品を輸入する際に、より多くの円を支払わなければならないからです。
- 1ドル100円の時
→100ドルの原材料は、10,000円のコスト - 1ドル150円の時
→100ドルの原材料は、15,000円のコスト
このように、円安になると輸入企業は仕入れコストが増加し、利益を圧迫する可能性があります。特に、売上原価に占める輸入比率の高い企業は、円安による減益効果が大きくなり、株価も下落しやすいため注意が必要です。
燃料を輸入に頼っている企業(電力会社・ガス会社など)は、円安によるコスト増加の影響を受けやすい。火力発電の燃料(石油・LNGなど)は、海外からの輸入に頼っているため、円安になると燃料費が増加し収益を圧迫する可能性があります。
また、原材料を輸入に頼っている企業(食品・飲料メーカーなど)も、円安の影響を受けやすいでしょう。穀物(小麦・大豆・トウモロコシなど)や食品原料(コーヒー豆、カカオ豆など)は、海外からの輸入に頼っているため、円安になると原材料費が増加し、収益を圧迫する可能性があります。
このように、円安は輸入関連企業の業績を悪化させ、株価にも悪影響を与える可能性があるでしょう。円安の影響を受けやすい業界や企業を把握しておくことで、円安局面での投資リスクを軽減できます。
円安時のおすすめ銘柄3選
円安が、輸出企業やインバウンド関連企業に良い影響を与えることが分かりました。ここからは、円安でおすすめな銘柄を次の通り3つ紹介します。
※2024年11月22日時点の株価情報を記載
- スバル(7270)
- ディスコ(6146)
- マツキヨココカラ&カンパニー(3088)
①スバル(7270)
- 株価:2,442円
- 市場:東証プライム
- 時価総額:17,964億円
- PER:(連)6.08倍
- PBR:(連)0.71倍
スバルは、独自の技術力と安全性能の高さで高いブランド力を確立していると言えるでしょう。特に北米市場では、安全性と走行性能に優れたSUVが人気を集め、2023年度の売上収益構成比を見ると、北米が7割以上を占めています。
円安になると、海外で販売した自動車の売上を日本円に換算する際に、より多くの円を得られるでしょう。そのため、円安はスバルの業績を押し上げ、株価にも好影響を与える可能性があります。
2023年度の連結決算では、生産台数970千台(前年比11%増)、営業利益は4,682億円とともに前年を上回る実績を達成しました。
スバルは2025年までに、世界販売台数を130万台に拡大することを目標に掲げています。また、電動化にも積極的に取り組んでおり、2030年までに、グローバルで販売する車の50%を電動化する計画です。
②ディスコ(6146)
- 株価:42,590円
- 市場:東証プライム
- 時価総額:46,160億円
- PER:?
- PBR:(連)10.61倍
ディスコは、半導体製造装置、特に精密加工装置で世界トップシェアを誇る企業です。半導体の製造過程において、ウェハーをチップに切り分けるダイシング装置や、ウェハーを薄く削るグラインダなどを製造・販売。
特に、高精度・高品質な加工が求められる最先端半導体の製造において、ディスコの装置は高い評価を得ています。スマートフォンやパソコン、自動車など、あらゆる電子機器に搭載される半導体の製造に、ディスコの装置は欠かせません。
また、ディスコは輸出比率の高い企業で、2023年度の売上高構成比を見ると海外向けが8割以上。円安になると、海外で販売した装置の売上を日本円に換算する際に、より多くの円を得られます。
そのため、円安はディスコの業績を押し上げ、株価にも好影響を与える可能性があるでしょう。
また、ディスコは高い技術力と市場シェアを背景に、高い収益性を誇っています。
2023年度の連結決算では、売上高は前期比8.2%増の3,075億円、営業利益は同10.0%増の1,214億円と、増収増益を達成しました。
③マツキヨココカラ&カンパニー(3088)
- 株価:2,023円
- 市場:東証プライム
- 時価総額:8,430億円
- PER:(連)15.97倍
- PBR:(連)1.64倍
マツキヨココカラ&カンパニーは、ドラッグストア業界のリーディングカンパニーです。「マツモトキヨシ」や「ココカラファイン」など、全国に3,000店舗以上を展開し、幅広い商品(医薬品・化粧品・日用品・食品など)を販売。
訪日外国人観光客の増加によるインバウンド需要を取り込み、成長を続けています。円安になると、外国人観光客にとって日本旅行が割安になるため、訪日観光客が増加するでしょう。
マツキヨココカラ&カンパニーの店舗では、外国人観光客に人気の高い化粧品や健康食品、医薬品などを豊富に取り揃えています。
また、都市部や観光地など、人通りの多い場所に多くの店舗を展開しており、顧客にとってアクセスしやすい環境を提供。訪日外国人観光客の増加は、売上増加に直結しやすいと言えるでしょう。
さらに、多くの店舗で、多言語(英語・中国語・韓国語など)に対応したスタッフを配置し、外国人観光客の購買をサポートしています。免税対応も充実しており、外国人観光客にとって快適な買い物環境を提供していると言えるでしょう。
2023年度のマツキヨココカラ&カンパニーは、売上高10,225億円(前期比7.5%増)、営業利益757億円(前期比21.6%増)と増収増益を達成しています。
円安時のメリット・デメリット
ここまでは、円安時に株価上昇が期待できる業界と、個別銘柄について説明してきました。
しかし、円安は良いことばかりでなく、経済や株価に悪い影響を与えることもあり、両方の影響を理解して、投資を行うことが重要です。
メリット
円安のメリットは、既に説明した通り、輸出企業の業績向上と外国人観光客の増加によるインバウンド需要が挙げられます。しかし、それだけではありません。
ここでは、円安がもたらす様々なメリットについて詳しく解説していきます。
割安度が増して日本株の魅力が向上
円安になると、海外投資家から見て日本株が割安になり、投資が増加する可能性があります。これは、同じ金額の外貨で、より多く購入できる為です。
海外投資家からの資金流入は、株価全体を押し上げる効果も期待できます。
また、個々の銘柄に注目した場合でも、割安株に投資することで、将来的に株価が上昇した際に大きな利益を得られる可能性があるでしょう。
海外投資の促進
円安になると、海外企業の買収や投資が活発となり、投資を日本に呼び込む効果も期待できます。
株式投資だけでなく、日本でのビジネスコストが下がるため、海外から日本の土地購入や工場建設など、実物資産への投資も促進されるでしょう。
経済活性化
円安は、輸出や訪日外国人観光客の増加を通じて、国内の生産・消費活動を活発化させ、経済成長を促進する効果が期待できます。
輸出が増加すると、企業の生産活動が活発化し、雇用創出にも繋がるでしょう。
また、訪日外国人観光客が増加すると、観光業や飲食業・小売業など、多くの業界で業績が向上し、経済全体に好影響を与えます。
デメリット
円安は輸出企業に有利に働く一方で、経済全体や私たちの生活にはデメリットも生じます。
特に、輸入物価の上昇によるインフレは、家計への負担が大きいため注意が必要です。
輸入物価の上昇によるインフレ
日本は、食料やエネルギー資源の多くを輸入に頼っています。円安になると、これら輸入品の価格が上昇し、企業のコスト増加に繋がるでしょう。
企業はコスト増を商品価格に転嫁するため、消費者はあらゆる商品の値上がりを実感することになります。食料品や日用品といった生活必需品の価格上昇は、家計を圧迫し、消費意欲の減退を招く可能性があります。
海外生産拠点の維持を困難にする
海外に工場や拠点を置く企業にとって、円安は現地での人件費や運営コストの上昇を意味します。コスト増に対応できなければ、収益悪化や事業縮小に追い込まれる可能性も出てくるでしょう。
海外への移動コストが上昇する
航空券や宿泊費などが割高になるため、円安によって海外旅行や出張が贅沢品になってしまう可能性もあります。
また、企業にとっては、海外との取引や従業員の海外派遣に掛かる費用が増加し、国際的なビジネス活動に影響が出る可能性があるでしょう。
円安時の注意点
円安は輸出企業の業績向上など、経済にプラスの影響を与えることもありますが、注意すべき点も存在します。
インフレを招く可能性がある
輸入品の価格が上昇し、企業のコスト増に繋がります。このコスト増は最終的に商品やサービスの価格に転嫁され、物価全体が上昇する可能性があるでしょう。
また、インフレ抑制のために金利が上昇する可能性もあり、住宅ローンや企業の借入コスト増加に繋がることも考えられます。
為替の予想は非常に困難
様々な要因が複雑に絡み合い、為替相場は常に変動しています。専門家でも正確な予測は難しく、短期的な変動を捉えることはさらに困難です。
円安がいつまで続くのか、あるいは今後円高に転じるのか、確実なことは誰にも言えません。
為替相場は株価に織り込まれている可能性が高い
株式市場は常に将来を見据えて動いており、現在の円安傾向は既に株価に反映されていると考えられます。そのため、円安だからといって安易に投資するのは危険。
重要なのは、今後の為替の動向、そしてそれが企業業績にどう影響するかを分析し、将来を見据えた投資判断を行うことです。
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