これまでの連載記事までは、もともと人から金銭を詐取するのが目的で行われた金融詐欺を取り上げてきました。
この手の犯罪集団は、いくつかの点に注意すれば、ある程度、詐欺かどうかを見分けることができます。
金融詐欺業者を見分ける6つのポイント
これまでのおさらいになりますが、金融詐欺業者を見分けるポイントをまとめておきましょう。
- 銀行でもないのに「元本保証」や「確定利回り」を提示している
これは完全に出資法に抵触します。
- 合理的に考えて、おかしな収益性が提示されている
たとえば日本の長期金利が1.6%程度の時代に、年率7%が提示されているのは、あまりにもおかしいと考えるべきでしょう。
- 芸能人やスポーツ選手が広告に掲載されている
特に一時代を築いたものの、「あの人は今」的な状態になっているような人が広告塔に使われている業者には要注意です。
- 「海外投資」「ヘッジファンド」「プライベートバンク」という触れ込みには要注意
本物のヘッジファンドやプライベートバンクは、数十億円単位の顧客に対するサービスであり、「少額資金でも、これらのサービスが受けられます」というのは、十中八九、詐欺と思ったほうがよいでしょう。
彼らは一般大衆向けのサービスは行いませんし、ある程度の資金力があったとしても、彼らの有力顧客からの紹介でない限り、アクセスできないのが普通です。
- 「怪しいかも」と思ったら、まずインターネットで検索すること
変な噂はかならずインターネットで流れています。
火のないところに煙は立たないので、検索して「怪しい」といったコメントがあるときには、近づかないほうが無難です。
- 最終的には金融庁や消費者センターに確認を
特にライセンスを必要とする資産運用業、金融業については、金融庁などで確認することで、違法業務かどうかを把握できます。
金融ジャーナリストが実際に金融詐欺業者へ会いに行ったコワい話
これは若干の危険が伴うかも知れないので、あまりお勧めできませんが、実際に金融詐欺業者に会いに行ってみるという手もあります。
といっても喫茶店やカフェで会って説明を聞くのではなく、相手のオフィスに直接行ってみるのです。
そこから得られる情報は、結構たくさんあります。
以前、東北鉱山という会社を取材したことがありました。
今ほどではありませんが、徐々に金価格が値上がりしたときの話です。
東北鉱山の触れ込みは、だいたいこのような話でした。
「東北地方に廃鉱になった金山があり、そこにはまだかなりの金の埋蔵量がある。それを再開発し、金を採掘する。そのためにはさまざまな鉱山機械が必要であり、それをそろえるための資金を、広く個人から集めたい。出資してくれた人には年5%の確定利回りを保証する。ちなみにその会社は70年の歴史があり、鉱山開発の許可を通商産業省(現在の経済産業省)からもらっている」
そもそも確定利回りを保証したうえで資金を集めること自体、違法ではあるのですが、ちょっと興味があったので、東北鉱山が銀座に構えているオフィスにお邪魔しました。
雑居ビルに入っているそのオフィスをアポなしで訪問したのですが、ノックをしてドアを開けると、「いかにも」という方がこちらを睨みつけ、近づいてきました。
いささか気圧されましたが、「ちょっと面白そうな投資話があると聞いたもので、説明を伺いに参りました」と言って、その場で説明を受けました。
話を聞きながらオフィスの様子を見ると、70年の歴史を持っている会社の割には人がいない。オフィスには事務機器がほとんどないガラガラの部屋。そもそも応対して下さった方の応対が、真っ当な客商売のそれとは違う。そんな印象を受けました。
一通り話を聞いた後、当時の通商産業省に電話をし、この手の許可をおろしているのかどうかを確認したところ、「そのような事実はいっさいありません」ということでした。
まっとうな金融機関が人を騙した「アーツ証券事件」
このように、金融詐欺を企んでいるのかどうかを見破る方法はいくつかあるのですが、それをもってしても見破るのが極めて困難なケースがあります。
それは、まっとうな金融機関が人を騙すケースです。
今から10年ほど前の話です。
2016年にアーツ証券という、金融庁からのライセンスを受けて営業を行っていた証券会社の社員による内部告発で明らかになった事件がありました。
診療報酬債(レセプト債)という証券化商品を用いた投資スキームで、実に2,470人、総額227億円もの被害を出した事件です。
そもそもアーツ証券自体、証券業のライセンスを得て営業をしていたので、レセプト債を購入した個人は、まさかその債権が詐欺まがいのものであることなど、夢にも思わなかったでしょう。
診療報酬債とは、医療機関が受け取る診療報酬の受取権利を証券化したものです。
短期の事業資金を確保したい医療機関が、診療報酬債権を運用会社などに割引譲渡し、その譲渡を受けた運用会社がこれを証券化したうえで、証券会社などを通じて投資家に販売します。
日本の場合、最終的に診療報酬債権の債務者は国民健康保険や健康保険になるため、ほぼ確実に資金回収が見込める、極めて優良な債権のはずでした。
ところが、アーツ証券事件においては、事もあろうに診療報酬債の買い付けに回されていたと思われていた資金の約8割が、実際には診療報酬債の買い付けに回されておらず、ベトナムのペーパーカンパニーと思しき企業への投資資金になっていたのです。
しかも、この事件で診療報酬債の販売窓口は、実際の販売額でアーツ証券が断トツだったため、「アーツ証券事件」などといわれていますが、実は他にも地方の中小地場証券がいくつか販売に絡んでおり、そのため全国規模の事件に発展しました。
お金のプロたちが金融詐欺に手を染める異常事態に発展
いくら何でも、金融庁からライセンスをおろしてもらった、れっきとした証券会社が、詐欺など働くはずがないというのが、一般的な認識です。
しかし、アーツ証券が販売した診療報酬債は、まさに詐欺的な金融商品だったと言わざるを得ません。
なぜなら、投資家から集めた資金で診療報酬債を買い付けると思わせておきながら、集めた資金の8割が、診療報酬債以外の投資に回されていたからです。
このスキームの裏には会計事務所がおり、本来ならその会計事務所は、投資家から集めらえた資金がきちんと診療報酬債の買い付けに回されていることを確認する立場でありながら、実は集められた資金をベトナム企業への融資に誘導する役割を果たしていました。
この事件が発覚した後、アーツ証券の破産管財人が資金回収を試みるため、その融資先であるベトナム企業を現地まで追いかけたものの、すでにそのベトナム企業は会社を畳んでおり、資金回収はできなかったそうです。
この事件は、販売金融機関であるアーツ証券、会計監査を行う会計事務所、そして集めた資金を運用するオプティファクターが結託して絵図を描いたものと言ってもよいでしょう。
最終的にアーツ証券は破産、その社長は実刑判決、運用会社であるオプティファターも破産したうえに、その社長も実刑判決、会計事務所は民事訴訟、さらにアーツ証券やオプティファクターの役員も次々に破産しました。
つまり被害者は、損害賠償を行う先まで失ってしまったのです。
もっと言うと、この商品の販売には、独立系ファイナンシャルアドバイザーやFP(ファイナンシャルプランナー)も絡んでいたと聞いています。
つまり、販売した人たちは皆、合法な企業に勤務しているか、それなりのライセンスを保持していました。
これも、被害者たちが何も疑うことなく、この手の金融詐欺商品に手を出してしまった理由のひとつです。
合法であるはずの金融機関が働く詐欺を見破る方法は、ほとんどありません。
めったに起こる事件ではありませんが、そういうケースもあるのだということを頭の片隅に置いて、実際に投資をする際は、本当に大丈夫なのかどうかをしっかり裏取りして、その是非を判断するようにしてください。
参照:金融庁「参考資料:アーツ証券事件の概要」
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■監修&執筆:鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)
岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て2004年に独立。投資信託、資産運用を中心に原稿を執筆するのとともに、単行本の企画、ライティングも行う。
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