蛇口をひねれば、いつでも安全な水が使える。
私たちの生活は、この当たり前の水道インフラの上に成り立っています。
しかし、その足元で見過ごすことのできない深刻な危機が進行していることをご存じでしょうか?
高度経済成長期に集中的に整備された日本の上下水道管は今、一斉に寿命を迎えようとしています。
これは、もはや一部の自治体の問題ではなく、日本全体が抱える待ったなしの社会課題なのです。
一方で、このような巨大な社会的課題は、視点を変えれば、株式市場における長期的な投資テーマになり得ます。
AI(人工知能)やドローンといった最新技術を駆使してこの難題に挑む企業が、今まさに投資家の熱い視線を集めているのです。
本記事では、なぜ今、上下水道関連銘柄が魅力的な投資対象となり得るのか、そして日本の上下水道のために貢献が期待される厳選5銘柄を解説します。
待ったなし!日本の上下水道が抱える「老朽化」の深刻な実態
2025年1月、埼玉県八潮市で道路が突然陥没し、走行中のトラックが穴に転落するという事故が発生しました。
トラックの運転手は数ヶ月後、下水道管内で遺体となって発見されました。
さらに、この事故により、県は周辺住民に2週間ほどにわたって下水道利用の自粛を求め、120万人が不便を強いられました。
原因は、古くなった下水道管が破損したこととみられています。
下水道管の老朽化が原因とみられるこの事故は、日本の上下水道インフラに対する大きな警告として受け入れられるべきでしょう。
国土交通省が公表したデータでは、令和5(2023)年度末時点で全国の下水道管路の総延長は約50万kmです。
このうち、標準耐用年数とされる50年を超過した管路はすでに約4万km(総延長の約7%)に達しています。
「まだ7%か…」と安心するのは早計に過ぎます。
試算によれば、10年後には耐用年数超えの管路は約10万km(総延長の約20%)へと急増するとされています。
さらに20年後には、約21万km(総延長の約42%)にまで達すると見込まれています。
日本の下水道インフラは、まさに今、老朽化の爆発的な増加期へと突入しようとしているのです。
同様に、私たちが使った水をきれいにする下水処理場もまた深刻な状況にあります。
ポンプや送風機といった機械・電気設備の標準耐用年数は15年ですが、これを経過した施設は全国に約2,000ヵ所あり、これは全体の実に90%を占めるという衝撃的なデータもあります。
水道管や関連施設の老朽化がもたらすリスクは、単に水漏れや断水といった直接的なトラブルだけでなく、対応する自治体の財政を圧迫し、安心・安全で継続的な水の利用を危うくする可能性があります。
ではなぜ、これほど重要な水インフラの更新が進んでいないのでしょうか?
そこには「2つの大きな壁」が存在します。
第1の壁は「莫大な費用」です。
老朽化した管路をすべて更新するには、数兆円、あるいは数十兆円規模の予算が必要とされ、多くの自治体は単独でその財源を確保することが困難な状況にあります。
そして第2の壁が「人材不足」です。
上下水道の点検や工事には専門的な知識と経験が不可欠ですが、現場を支えてきた熟練労働者の多くが高齢化し、次世代への技術承継が追いついていません。
とくに地方の小規模な自治体では、専門職員の確保すらままならないケースが増加しています。
社会的課題が「巨大ビジネス」に変わる理由
水インフラ市場は今、大きな転換点を迎えています。
それは「新しく作る」時代から、今ある膨大な設備を「守り、活かす」時代へのシフトです。
かつての建設中心のビジネスモデルから、維持管理・更新・更生という、長期安定的なストック型市場へと質的に変化しています。
ただ、この巨大な市場には従来のやり方が通用しません。
深刻な人手不足の中で全てを掘り返して交換するには、莫大なコストと時間がかかるからです。
そこで不可欠となるのが、テクノロジーによるイノベーションです。
たとえば、AIを活用して効率的に劣化箇所を予測したり、人が入れない管路をロボットやドローンで点検したりする技術がすでに実用化されています。
また、道路を掘らずに古い管の内側を新品同様にリニューアルする「更生工事」も需要が急増中です。
こうした技術革新が、これからの上下水道の老朽化対策には求められています。
国もこの流れを後押ししており、DX(デジタルトランスフォーメーション)や民間活力の導入を加速させる方針を示しています。
国土交通省の試算では、2019年度から30年間の下水道維持管理・更新費は累計で約38兆円に達する見込みです。
巨額の資金が動く水道市場において、独自の先端技術を持つ企業には、長期にわたる成長ドライバーが得られる大きなビジネスチャンスと捉えることも可能でしょう。
【厳選5社】水インフラの「点検・工事・運営」を担う注目銘柄
ここまで、日本の水インフラ老朽化は深刻な状況にあること、独自の先端技術を持つ企業にとっては老朽化対策はビジネスチャンスとなり得ることを解説しました。
ここからは、日本の水インフラが直面する課題解決において中心的な役割を果たすことが期待される、厳選5銘柄を紹介します。
NJS(2325):ドローンで下水道管の点検
| 株価 | 5,250円 |
| 時価総額 | 527億円 |
| 配当利回り | 2.0% |
| PER(連) | 21.26倍 |
| PBR(連) | 1.74倍 |
| ROE(連) | 8.36% |
東証プライム上場
出所:Yahoo!ファイナンス 2025年11月7日時点
NJSは、上下水道のコンサルティングを主力とする独立系の建設コンサルタント会社です。
「水と環境」に特化した高度な専門技術で、長年にわたり日本の水インフラを支えてきました。
NJSが株式市場で大きな注目を集めている理由は、先端技術を駆使した「点検・調査」分野での革新的な取り組みにあります。
特筆すべきは、ドローンを活用した管路点検システムです。
これまで下水道の調査は、作業員が直接マンホール内に入るなど、危険を伴う作業が多くを占めていました。
しかしNJSは、飛行型だけでなく、水上を走行するものや水中を潜航するものなど、複数のドローンを現場環境に合わせて使い分けることで、人が危険な場所に立ち入ることなく、安全かつスピーディに詳細な調査を行うことを可能にしました。
老朽化対策で急増する点検ニーズに対し、効率的なソリューションを提供できる強みは大きなポイントです。
売上の大半が官公庁向けであるため、公共投資の動向に業績が左右されやすい側面はあるものの、DXの潮流に乗り、さらなる飛躍が期待されます。
インフロニア・ホールディングス(5076):AIによる上下水道劣化予測
| 株価 | 1,748円 |
| 時価総額 | 4,804億円 |
| 配当利回り | 4.46% |
| PER(連) | 8.50倍 |
| PBR(連) | ー |
| ROE(連) | 7.05% |
東証プライム上場
出所:Yahoo!ファイナンス 2025年11月7日時点
インフロニア・ホールディングスは、準大手ゼネコンの前田建設工業や道路舗装大手の前田道路などを擁する総合インフラサービス企業です。
インフロニア・ホールディングスの強みは、「作って終わり」ではなく、インフラの運営・維持管理まで長期的に関与するビジネスモデルへの転換を加速させている点にあります。
注目すべきは、コンサル大手アクセンチュアとの合弁会社を通じて進めるDX戦略でしょう。
インフラ現場にいまだ多く残る紙ベースの情報を、AIを活用して効率的にデータ化する取り組みを進めています。
これらの情報をインフロニア・ホールディングスがグループで管理する「上下水道」のデータを掛け合わせることで、地中の管路損傷が引き起こす道路陥没といった複合的なリスクまでも予見することを目指しています。
ただし、現状ではまだ従来型の建設事業が収益の柱であるため、こうした先行投資が本格的に利益貢献してくるまでには、中長期的な視点を持つ必要があるでしょう。
積水化学工業(4204):道路を掘らずに施工する独自技術
| 株価 | 2,613円 |
| 時価総額 | 1兆1,510億円 |
| 配当利回り | 3.06% |
| PER(連) | 15.06倍 |
| PBR(連) | 1.31倍 |
| ROE(連) | 10.24% |
東証プライム上場
出所:Yahoo!ファイナンス 2025/11/7時点
積水化学工業は、住宅や社会インフラなど多分野に関わる大手樹脂加工メーカーですが、水インフラ分野でも高い技術力が評価されています。
とくに注目すべきは、積水化学工業が1986年に開発した独自技術「SPR工法」です。
SPR工法とは老朽化した下水道管を再生させる技術なのですが、最大の特徴はその施工方法にあります。
道路を掘り起こす必要がなく、マンホールから資材を搬入でき、交通渋滞や騒音といった周辺環境への影響を最小限に抑えられます。
さらに、下水を流したまま施工できる点も大きなメリットです。
都市部や交通量の多い幹線道路など、大規模な開削工事が難しい場所での需要を引き受けることが可能であり、業界内で強い競争力を有しているといえます。
積水化学工業の1つの柱である住宅事業の動向が株価に影響を与える可能性がある点には注意が必要ですが、SPR工法は国内だけでなく海外への展開も進めており、水インフラ事業は今後も安定した収益源として積水化学工業を支えていくことが期待されます。
クボタ(6326):世界最高水準の水道管
| 株価 | 2067.5円 |
| 時価総額 | 2兆3,794億円 |
| 配当利回り | 2.42% |
| PER(連) | 16.71倍 |
| PBR(連) | 0.98倍 |
| ROE(連) | 9.90% |
東証プライム上場
出所:Yahoo!ファイナンス 2025年11月7日時点
クボタといえば、農業を中心とした機械メーカーとしてのイメージが強いかもしれません。
しかし、クボタは水道管の世界でもトップ企業であり、1890年の創業以来、日本の水インフラ整備に深く関わり、その技術力は世界最高水準を誇ります。
クボタは下水道管に利用される「ダクタイル鉄管」のリーディングカンパニーで、世界最大口径の鉄管の製造や、耐震型の鉄管の開発などに実績があります。
その技術力の高さは、東日本大震災をはじめとする多くの災害で、耐震性が実証されており、国内だけでなく海外の大規模プロジェクトでも高い評価を得ています。
1950年代から培ってきた水処理技術と合わせ、世界の水環境を支えるグローバル企業としての地位を築いているといえるでしょう。
ただし、クボタの業績は海外の機械市場の動向にも大きく影響を受けます。
下水道関連銘柄としての側面だけでなく、グローバル企業として世界経済や為替の動きなども注視しながら、投資判断を行う必要があるでしょう。
メタウォーター(9551):クラウドサービスによるDX推進
| 株価 | 3,255円 |
| 時価総額 | 1,440億円 |
| 配当利回り | 2.15% |
| PER(連) | 15.96倍 |
| PBR(連) | 1.80倍 |
| ROE(連) | 8.89% |
東証プライム上場
出所:Yahoo!ファイナンス 2025年11月7日時点
メタウォーターは、日本ガイシと富士電機の水環境部門が2008年に統合して誕生した、水処理専業で国内最大手の総合エンジニアリング企業です。
機械設備と電気設備の両方に精通した技術力を背景に、施設の設計・建設から運転・維持管理までをトータルでサポートできる強みを持っています。
メタウォーターは、下水道管路の点検データや維持管理情報をクラウド上で一元管理し、分析などを通じて最適な改築・修繕計画の立案を支援するサービスを提供しています。
これにより、自治体は限られた予算と人員の中で、効率的かつ効果的なインフラ管理が可能となります。
水インフラビジネス運営全体のDXを推進するパートナーとして重要な存在といえるでしょう。
公共性の高い事業であるため、急激な業績拡大は見込みにくい側面がありますが、官民連携(PPP)の流れが加速する中で、安定した成長が期待できるでしょう。
上下水道関連銘柄へ投資する際の注意点
成長期待の高い水インフラ市場ですが、投資にあたってはいくつか押さえておくべきリスクや特性があります。
【注意点1】公共投資への依存度
まず、公共投資への依存度が高い点です。
上下水道の老朽化対策を行う関連企業の主な顧客は国や地方自治体であるため、業績は国の予算配分や公共事業費の増減に影響を受けやすい側面があります。
景気対策で大型予算が組まれれば追い風になりますが、財政引き締め局面では新規案件が先送りされるリスクもゼロではありません。
【注意点2】利益率の構造
次に、利益率の構造です。
公共事業は入札制度などもあり、一般的にIT企業のような爆発的な高収益は期待しにくい傾向にあります。
安定配当を好む投資家に向いている反面、短期間で株価が数倍になるような派手な値動きは少ないと理解しておきましょう。
【注意点3】長期的なテーマであることの認識
最後に、長期的な視点が必要だということです。
インフラの老朽化対策は、数十年単位で続く国家プロジェクトです。
短期的な株価の変動に一喜一憂せず、じっくりと腰を据えて投資する姿勢が求められます。
【まとめ】下水道管の老朽化対策はDX技術の活用で新たな成長市場へ
日本の上下水道が直面する老朽化は、もはや先送りできない「待ったなし」の社会課題です。
しかしこの危機的状況は、裏を返せば今後数十年にわたって安定した需要が見込める巨大市場の誕生を意味しています。
投資のポイントは、かつての「新設」中心から、「維持管理・更新・運営」へと市場がシフトしている点です。
この変化の中で勝者となるのは、単なる土木工事会社ではなく、AI・ドローン・ロボットといった先端技術で「インフラDX」を牽引できる企業です。
水インフラの維持は私たちの生活の快適性や安全に直結する非常に重要な社会的使命です。
短期的な市場の変動に惑わされず、腰を据えて長期的な視点で向き合う投資対象として検討してみてはいかがでしょうか?
※本記事内で個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。


『』の口コミ
口コミ一覧