2026年は60年に1度の「丙午(ひのえうま)」の年です。
日本において丙午は特殊に扱われてきました。
60年前の丙午である1966年はどのような年だったのでしょうか?
また、丙午の1966年生まれの人はどのような社会情勢で日本を過ごしてこられたのでしょうか?
丙午から日本が辿ってきた経済・金融の状況を振り返ってみたいと思います。
丙午の1966年生まれの人はなぜ激減したのか?
2026年は丙午(ひのえうま)の年です。
丙午は「干支(えと)」の1つで、西暦年を60で割って46が余る年が丙午の年になります。
2026年の前の丙午は1966年ですが、確かに、
・1966年÷60=32 余り46
・2026年÷60=33 余り46
というように、46が余ります。
丙午は凶歳(きょうさい)と言われます。
たとえば中国では北宋の末期から、丙午の年には火災が多いという迷信が信じられていたそうです。
そして日本においては、その根拠はよくわかりませんが、「丙午生まれの女性は気性が激しく、夫の命を縮める」という迷信がありました。
今、こんなことを堂々と言ったらセクハラものですが、迷信とはいえ、信じた人は多かったようで、それは出生時男女比にも現れています。
厚生労働省が発表している「人口動態調査」から、出生時男女比の年次統計を見てみましょう。
人口動態調査は、女性100に対する男性の比率を調べたもので、男女同数だと100になり、男性が少ないと100を下回り、男性が多いと100を超えてきます。
人口動態調査で過去の数字を見ると、大体105前後で推移しており、これは女児100人に対して男児105人が生まれていることを意味するのですが、1966年の数字は107.62となっており、また1066年の前の丙午である1906年は108.68でした。
また、出生率にも影響があり、1966年のそれは前年に比べて25%も下がりました。
1966年に生まれた新生児の数が少ないことから、この学年(1966年4月1日生まれ~1967年3月31日生まれ)は高校や大学の受験が容易であるという話もありました。
なか卯も伊藤園も丙午の1966年に設立された
では、1966年はどういう年だったのでしょうか?
たとえば2月26日には牛丼チェーンの「なか卯」が設立され、3月31日には日本の総人口が1億人を突破しました。
4月1日にはヱスビー食品が「ゴールデンカレー」を発売し、4月29日には京葉道路が全線開通しています。
5月15日に日本テレビ系の演芸番組「笑点」の放送がスタートし、6月29日にはビートルズが来日しました。
8月22日にはお茶の自販機で有名な伊藤園が設立され、10月20日には国民車と言われたトヨタ自動車の「カローラ」が発表されています。
1966年は暗い経済状況だったものの高度経済成長は続く
丙午について経済面にも目を向けてみましょう。
1966年の前年までは、経済的に暗い時期でした。
1964年から1965年にかけて、「証券不況」「40年不況」などと言われた不景気が襲ったのです。
1960年代の日本は高度経済成長期の只中でした。
しかし、1964年に開催された東京オリンピックや新幹線、首都高速道路の整備などによってオリンピック景気に沸いたものの、需要超過による景気過熱への警戒感から日銀は金融引き締めを実施しました。
東京オリンピックが終わると、景気は急速に冷え込みました。
この時期を「証券不況」と呼ぶのは、株価の低迷もさることながら、当時、大手証券会社の一角を占めていた山一證券が、倒産の危機に瀕したからです。
1966年は、証券不況から立ち直り、当時は戦後最長と言われた「いざなぎ景気」の始まる時期に当たります。
いざなぎ景気の間、日本経済の成長率は極めて高く、1966年度から1970年度までの年平均の経済成長率は11.8%にも達しました。
そして1968年には、日本のGNP(国民総生産)が当時の西ドイツを抜き、世界第2位の経済大国へとのし上がったのです。
1966年生まれの人が社会人になった頃にバブル経済が到来
1966年の丙午の年に生まれた人たちが社会人になるまでの日本経済は、1973~1975年の第一次オイルショックとニクソンショック、1980~1983年の第二次オイルショック、1985年の円高不況など短期的な不景気はあったものの、経済規模はほぼ右肩上がりで拡大し続けました。
そして戦後の高度経済成長のハイライトが、1987年から1991年までのバブル経済でした。
1966年生まれの人たちが社会人になったのは、高校卒業だと1985年、短大卒が1987年、大学卒が1989年ですから、社会人になったタイミングとバブル期がほぼ重なります。
ちなみに日経平均株価を見ると、1966年1月4日は1,430円だったのが、1989年12月29日には3万8,915円をつけました。
丙午(1966年)の人たちが生まれ、株価的にバブルがピークをつけたまでの間、日本の経済規模がどのくらいになったのかをGDPで見ると、名目GDPは1966年が39兆3,968億円で、1989年が405兆6,554億円ですから、実に10倍超まで膨らんだことになります。
大学までストレートで合格し、留年もなく卒業した1966年生まれの人たちが社会人になったのは1989年です。
厚生労働省の統計によると、当時の初任給は16万円でした。
社会人になった当時はバブルの最終局面ですから、羽振りの良い先輩社員を見て、「自分たちもああなるはず」と思っていた人も少なくなかったでしょう。
でも、バブル経済は崩壊しました。
「丙午世代」は雇用・賃金の面で「失われた30年」の洗礼を浴びてきた
1966年生まれの人たち、いわゆる「丙午世代」を「バブル入社組」などと揶揄する声もありますが、社会人になりたての頃は給料が安く、その後はバブル経済の崩壊と、長期にわたるデフレ経済によって会社の業績はなかなか上がらず、したがって給料も高度経済成長期に働いていた人たちに比べて大きくは増えませんでした。
丙午の人たちが社会人になってからの日本経済は、「失われた30年」などと表現されるように、日本経済にとっては極めて厳しい状況が続きました。
経済の実力以上の円高が長期にわたって続いたため、多くの企業は生産拠点を海外に移転させ、結果的に国内の雇用創出力が失われました。
また、バブル経済の崩壊によって多額の不良債権を抱えた金融機関が貸し渋りや貸し剥がしを行ったことから、多くの中堅・中小企業が倒産し、さらに当の金融機関も経営破綻が相次ぎました。
特に1998年から2003年にかけては、日本国内で金融不安が高まり、山一証券や三洋証券、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行など大手金融機関も倒産に追い込まれました。
これがきっかけで金融業界の再編が加速し、バブル崩壊前は13行あった都市銀行は、今では3大メガバンクに統合されています。
その他にも、失われた30年の間に、私たちを取り巻く労働環境が大きく変わりました。
働き方では終身雇用・年功序列・正社員が当たり前でしたが、今や非正規社員が4割を占め、終身雇用や年功序列もなくなり、転職するのが当たり前になりました。
日本企業の力が大きく後退したのも、この30年間の特筆すべき点です。
株式時価総額で上位10社を見ると、1989年は日本企業が7社を占めていたのですが、2024年時点では1社もありません。
こうしたなか、日本経済の規模も横ばいとなりました。
何しろ長期のデフレ経済で、物価下落が続きましたから、GDPそのものが膨らまないのです。
日本の名目GDPは1997年に543兆5,453億円まで増えたものの、その後20年近くにわたって横ばいが続き、2016年時点で544兆3,646億円に留まりました。
日本経済が回復の兆しを見せた頃、丙午世代は定年を迎える
日本経済がようやく上向き始めたのは2020年代に入ってからです。
株価的には、アベノミクス効果もあり、2013年から徐々に上昇基調へと移っていきましたが、日本の経済規模が膨らみ始めたのは2021年以降です。
デフレからインフレに移行したこともあり、名目GDPは2024年に600兆円に乗せ、2025年の推計値は632兆532億円となっています。
しかし、日本経済がようやく回復の兆しを見せた頃、丙午の1966年生まれの人たちは60歳になり、定年を迎えるケースが多いです。
雇用延長をしたとしても、給与は定年前の水準に比べて40~60%程度と言われており、大幅に減らざるを得ません。
振り返ってみれば、バブル経済のピークで社会に出た丙午の人たちは、バブル経済の崩壊と長期デフレ、労働環境の変化に翻弄される現役時代を過ごし、収入が大きく増えることもないうちに定年を迎えることになってしまったようにも見えます。
ちなみに、厚生労働省の統計を基に、当時の初任給から定年時の平均賃金を比較すると、1989年に入社した時の初任給が16万円だとして、2026年に定年を迎える時の給与は43~48万円です。
給与の倍率は2.6~3倍といったところですが、高度経済成長期に定年を迎えた世代であれば、給与の倍率は約4~5倍だと言われています。
このように見ていくと、確かに就職そのものはしやすかった世代であり、就職氷河期に社会人になった人たちからすれば恵まれていると言われるかもしれませんが、「丙午世代」が社会に出てからの足跡をたどると、決して恵まれた世代ではなかったことがわかります。
2026年生まれの丙午世代も厳しい経済状況が待ち構えている
では、2026年の丙午に生まれた人たちは今後、どのような世の中を生きていくのでしょうか?
2026年に生まれた人たちが60歳になった時の西暦は2086年です。
現時点でほぼ確実にわかる数字は「人口推計」です。
2020年時点で1億2,615万人いた日本の人口は、2086年には7,411万人まで減少するとされています。
この人口は第二次世界大戦終結時点のそれとほぼ同じです。
しかも、2020年時点では全人口に占める65歳以上の人口が28.6%だったのが、2086年には42.2%まで上昇する見込みです。
人口が減少するとともに高齢化がますます加速し、そのなかで今と同じことを続けていたら、日本経済はさらに疲弊していくでしょう。
そのなかで日本はどのようなかじ取りをしていくべきなのでしょうか?
本サイトでは、1966年生まれの「丙午世代」の方々に「お金」や「人生」等についてお話を伺いつつ、今後の投資家の方々にとって役立つ知識・情報を提供していきたいと思います。
■監修&執筆:鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)
岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て2004年に独立。投資信託、資産運用を中心に原稿を執筆するのとともに、単行本の企画、ライティングも行う。


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